ていえぬのオールタイムベスト映画

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これから少しずつ増やしていくつもりです。


『アメリカン・サイコ』(2000)

 ウォール街のエリートビジネスマンが趣味にエクササイズにセックスに殺人に興じる様を描き、消費社会の病を浮き彫りにする問題作。其の実、物欲にとらわれて内面がカラッポになってしまった人間の悲哀の物語。アメリカの作家ブレット・イーストン・エリスの暴力小説の映画化。
 
 主人公パトリック・ベイトマンは富と地位を約束されたビジネスマンだが、その欲望は飽くことを知らず、ある時は自分より弱い立場の娼婦やホームレスを殺し、ある時は自分より優位に立った同僚を殺して(排除して)己のエリート意識を満足させる、というお話。もちろん映画にも過激なセックス&バイオレンス描写があるのですが、どちらかといえば風刺喜劇の趣が強く、脚本も整理されすぎていて、原作の持つ混沌とした狂気に比べてパワーが落ちます。原作は消費活動とセックスと殺人を等価に、淡々と描いており、意図的な悪文も手伝ってまさに‘サイコ’の境地に至っています。なので映画と小説を一体として体験して、その猛毒に当てられることをおすすめします。私も映画→小説で作品世界にハマりました。ちなみに本はブックオフで100円でした。
 
 映画の見所は何といっても主人公のパトリック・ベイトマンを演じたクリスチャン・ベールの勇姿。高級ブランドのスーツに身を包み、愛想の良い笑みを浮かべ、ポップミュージックのオタッキーなうんちくを披露しつつ標的に近づき、隙を見て「このやろー!」とか叫びながら狂気をむき出しにして脳天に斧を振り下ろす様はまさに現代のホラー・アイコンとして無敵の格好良さ。顔をゆがめて相手を罵り全裸でチェーンソーを振り回す活躍ぶりで‘サイコ野郎’を体現しています。その他、ライバルたちとの名刺自慢(!)の場で相手に完璧な美しさの名刺を見せつけられて意識が朦朧とする最高の珍シーンもあり。ライバルに差をつけられまい、ダサいと思われまいとあたふたする姿を滑稽に、悲哀たっぷりに演じています。クライマックス、ベイトマンの築いてきた世界が崩壊すると共に人格もぶっ壊れていく演技は本当に熱い。映画を見た後で原作へと進めば、映画のイメージそのまんまでさらに詳しく読めるので良い感じです。
 
 ベールはその後『サラマンダー』でドラゴンと対決し、近未来SF『リベリオン』でガン=カタの使い手となり、『マシニスト』で30キロ痩せて悪夢をさまよい、『バットマンビギンズ』でムキムキに戻ってヒーローを演じました。『バットマン』の中で主人公ブルース・ウェインの表の顔がまんまベイトマンなのが笑えます。
 
 『アメリカン・サイコ』には他にも今をときめくリース・ウェザースプーン嬢やジョシュ・ルーカス等、頑張っている人たちがたくさん出ていて楽しいです。おすすめ。(2006.6.24)
 
 最後に、劇中の画像ではないですが、ベール様のご尊顔を拝めるリンク。本当に格好良い。


『マルホランド・ドライブ』(2001)

 私がデイヴィッド・リンチの世界にのめり込むきっかけとなった魅惑の映画。リンチの最高傑作。この映画を観た後ならどんなに変な映画でも抵抗なく観られるようになりました。女優を夢見てハリウッドにやってきたヒロイン。そこで出会った記憶喪失の女。彼女の正体を探ろうとする内に変な人たちがいっぱい出てきて不可思議なことが次々と起こって迷宮入りの2時間26分。が、その長尺を全く感じさせない吸引力が並ではない。不条理な展開に観る者はパニックになるものの、わからないことが決して不快ではなく、むしろ快感になり、観終わった後に疲れはなく、心地よい夢を見ていた感覚になる。実際劇場で観た時「あれ?短いなあ」と思い、2時間以上あることを後で知って本気で驚きました。このパワーの秘密は、謎が謎を呼ぶ展開はもちろん、ほとんど一回しか登場しないくせに強烈かつ意味ありげな印象を残す奇怪な人物の怪演の数々、物語の転換点となる中盤のステージパフォーマンス(劇中のステージはリンチの定番)の緊張感、そして何といってもこの映画で大出世した主演のナオミ・ワッツです。初めて観たときはその熱演にだまされて、途中で女優が変わったのだと信じていました(どんな場面かは観てのお楽しみ)。彼女の存在を通して、ハリウッドにまつわる希望と絶望の構図が浮かび上がり、単なる謎解きドラマにも不条理ドラマにも留まらない、なんともいえず悲しい、圧倒的な情感がそこにはあります。ラストは涙、涙です。アンジェロ・バダラメンティの哀愁に満ちた音楽も手伝って、観れば観るほど好きになる作品です。
 
 ちなみに、この映画は元々テレビシリーズとして企画され、序章を撮った段階で一旦お蔵入りになってしまったものに新たなシーンを付け加えて(オチも加えて)一本の映画にまとめられたのだそうです。そう考えると登場人物がやけに多いことにも、また各シーンに関連がなさそうに見えることにも納得がいきます。全ては序章で、これから延々と展開されていくはずだったのでしょう。そのテレビシリーズにはマリリン・マンソン御大も出演されるはずだったそうで、『ツイン・ピークス』を超える異常なドラマになっていたであろうと想像されます。
 
 ナオミ・ワッツがこの映画でオスカーを獲らなかったのは謎ですが、彼女のその後の活躍はご存知の通り。『キング・コング』や『リング』の他にも、意思を持ったエレベーターが人間を殺しまくる(非常にタイムリーな)異常映画『ダウン』で主演してました。メジャーデビューが『マルホ』なら、もう怖いものなしです。記憶喪失の女を演じたエレナ・ローラ・ハリングも素晴らしかったですが、この間『パニッシャー』というこれまた異常なアクション映画にショボい役で出ていて、『マルホ』の時のオーラがなくて何だか残念でした。女優を一際輝かせるのもリンチ・マジックといえましょう。映画監督を演じたジャスティン・セロウは『アメリカン・サイコ』にベイトマンの友人役で出ていました。『マルホ』ではお笑い担当でおいしい活躍をしています。
 
 最後に、ニッキーという女性の役でちょこ〜っと出ているミシェール・ヒックスという女優さんは、いつかご紹介したい『ツインフォールズ・アイダホ』という号泣映画(必見)で主演していた方で、チョイのチョイ役まで気合が入っているのも『マルホ』の素晴らしさであります。(2006.6.24)